13x22cm Canvas
この頃の度はいわゆるバックパッカーと呼ばれる貧乏旅行で、新しい土地に着くと安宿を探して、街をぶらぶらと歩いて、どこか適当に休めそうな場所でコーヒーを飲み、人のたくさん入っている食堂を見つけては、皆が食べているものを試してみるというようなことを繰り返していた。
ベトナムのハノイに着くと同じ様に部屋を確保してから街を散策した。
市場を歩いていると形の良いマンゴーが目に入ったので、これを描いてみようと2,3個を選んでそれだけだと寂しいのでライムも一緒に買って帰った。
チェンマイを出るのに持ち物を整理したが、数色の油絵の具とオイルと筆とキャンバスの切れ端は鞄に入れておいた。乾くのに時間がかかるので、移動の続く旅には油絵の具は向いているとは言えないのだが、絵画の王様と言えば、やっぱりアクリルではなくて油という考えなので、安宿の部屋で小さい机いっぱいに道具を広げていた。
この頃は、デッサンの論理なんか考えず、むしろそういうものに頼らずにやっていくんだ、と考えていたので、今から思うと若造だったなと思うと同時に、若い頃の勢いはあの時にしかないものだし、それだけでも物事を進めていけるだけのパワーが有るのだと思う。そして、完成の絵をイメージすることもなく、この作品の様に気に入ったものができてしまうと、やっぱり俺はやれるんだなと、絵が描けるんだというような大いなる誤解を脳にも胸にも右腕にも焼き付けてしまうことになった。
とにかく一人で旅をしていたし、絵を描いていたから比べる対象がいなかったのは幸いだったと思う。芸大の入学試験で描かれるデッサンのうまいのを知っていたら、またはもっと前に芸大を志すようなことがあって、他の絵が上手な人の中に入っていたら、今こうして絵を描いたり、デザインをしたりしていたかどうかは分からない。
そういうことが重なって、今も絵を描き続けることができているのだと思う。