頭の良すぎる男たち

67x35x23cm

 チェンマイのアパートでは、入り口のドアを開けっ放しにしているのも珍しいことではなく、僕もそれに習ってチェンマイの風を浴び、ポータブルラジオからタイの放送を聞いていた。開け放しているドアから顔を覗かせてくれる同じ階のタイ人がいた。その中の双子のアムは美大で版画を学んでいて、その友だちもチラホラと集まることがあった。

 アムと仲の良かったミントは、彫刻科で学んでいた。英語はほとんどで、僕のタイ語も拙かったが、その姿勢からやっていることが好きで自信があるんだろうということはよく分かった。ある日、学校について行ったついでにで先生に作品を見せて、彫刻を勉強させて欲しいことを伝えると、なんと先生からのOKが出て、次の日から粘土を使って彫刻をはじめることになった。特に授業みたいなものはなく、学校へ行くと与えられた場所で作品作りをした。大量の粘土をもらって、頭から脳の一部が溢れ出ている「頭の良すぎる男たち」という作品をつくっていた。両面に2つの顔があり、グルリと回ると2つの顔がみられるというもので、平面では表現できない立体の面白さがあった。

 本当は、粘土の後に型をとって、石膏やファイバーグラスにするのが最終工程の予定だった。しかし粘土が終わりに近づいてきたところで先生に呼ばれ、やっぱりこれ以上続けさせることはできない、と言われた。他の生徒は授業料や材料費を払っているんだから当たり前だった。お金は払うというようなことも言ったが、そういう問題でもない。今思うとよくもまあ図々しいことをしたもんだと思う。

 美大に通ったことのない僕にとっては、彫刻が好きで、得意だという人間が集まっている場所は新鮮だった。
 後ろに見える、女性の石膏像はミントの作品。